Zene360

日本人のルーツ「縄文人」とは?

国立科学博物館館長
篠田謙一

最後に

#4
土田

西日本にある縄文遺跡というところで、縄文人度の高い方にぜひお勧めするべき遺跡ってありますでしょうか。

篠田

 西日本は東日本に比べるとあまり縄文の遺跡はないのですが、九州、特に私たち研究班が取り組んでいるのは佐賀市の東名遺跡ですね。あと福岡県北九州市の芦屋からは結構縄文人骨が出て、九州大学が管理しています。そのレプリカは確か九州国立博物館にあると思います。なので九州国立博物館に行かれるのがいいですね。

九州国立博物館 外観
九州国立博物館 外観

 関東近郊だと千葉の加曽利博物館が有名です。東京湾の周辺、特に千葉県には数多くの縄文貝塚があります。他には八ヶ岳西麓の「茅野市尖石縄文考古館」でしょうか。そこには国宝の土偶のヴィーナスがあります。山梨県立考古博物館でも立派な縄文土器を見ることができます。残念ながら人骨は出土していませんが。他にも長岡の新潟県立歴史博物館では縄文の歴史を知ることができるでしょう。
 東北だったら是川縄文館というのが八戸にありますね。 北海道ならば、伊達市の博物館があります。ニュースになっていましたが、北海道と東北の縄文の遺跡は世界遺産になりましたよね。後でお話ししますが、伊達の博物館の近くの洞爺湖町にも、その世界遺産の遺跡群に入っている入江貝塚という貝塚があるんですよ。
 大阪に行ったら大阪市立弥生博物館もありますが、そこは弥生時代がメインになりますね。
 やはり縄文人そのものを知るには一番は東京の上野にある国立科学博物館ですかね。自分の博物館の宣伝になってしまいますけど。

土田

Zeneで縄文人度の高い皆さんに、先生おすすめの縄文遺跡MAPを紹介できたら楽しそうですね。休日に自身のルーツを感じてもらえたらうれしいです。関東の方や旅行に来られた方にはぜひ上野の国立科学博物館に足を運んでもらいたいです。

国立科学博物館でみるべきポイント1 仲間に支えられながら病と戦っていた男性の骨

篠田

 館長として言うんだったら全部見るべきポイントです。
 縄文というとまずは北海道、東北の縄文から出た骨のレプリカの1つが展示してあります。先ほどお話しした入江貝塚から出土したものです。ゲノム解析でわかったのですが、恐らく筋ジストロフィーを発症した男性なんですよ。来館してご覧いただくとわかるんですが、すごく骨が細いです。もう普通には立っていられなかったと思います。18歳ぐらいで亡くなったとされているんですが、逆に言うと縄文時代に寝たきりになった人がその年まで生きられたということは、ケアをされていたことを示しています。皆さんは縄文時代のイメージとして、「生きるのに必死で働けない人は死んだ」と想像されていると思うんですけれども、そうではなくて仲間を助けていたんですよね。そのような背景が骨から分かる例として、展示しています。

日本館2階「縄文時代の手厚い介護」
日本館2階「縄文時代の手厚い介護」
 狩猟採集民は助け合わないと生きていけなかったのでしょう。北海道で、食料がどれだけ確保できるかもわからない中で、お互い支えあって生きてきたんです。
 ひとつの縄文遺跡の集団規模は大体25人くらいだと言われています。4世代くらいが共同生活をしている感じですね。またゲノムで婚姻がどの集団範囲で行われていたかを推定すると数百人単位なんですよね。おそらく10-20の集団が一つの連合体になっている社会構造だったんだろうと考えてます。

国立科学博物館でみるべきポイント2 昔の日本人の服

篠田

 服は残らないので分からないんですけど、一般的には木の皮とかを着ていたのではないかと言われています。私たちも実は一番困った点が、縄文人に何を着せるかということでした。旧石器人は全然分からないから裸で立たせました。本当はふんどしくらいつけさせようと思ったのですが、何ら根拠がないって言われて仕方なく。女性は縄文の一番古い時期の土器に腰みのをつけている絵があるので、まあ旧石器時代も同じだろうと考えて腰みのをつけました。
 アフリカを出たホモ・サピエンスは服を着ていただろうという間接的な証拠が一つだけあります。ヒトに付くシラミには、コロモジラミとケジラミがあって、ケジラミの方は何百万年前という古い時代に分化してるんです。だからその時代からヒトの体毛についてたんだろうということがわかるのですが、コロモジラミが分化したのは7万年ほど前になります。これは服を着だしたのが7万年前くらいと考えると説明できます。ちょうどアフリカが出てくるのが6〜7万年前ですから、その頃にきっと寒冷地に進出して、最初に服を作ったんだろうと考えています。なお、考古学的には針が出てくるのが4万年前ですね。針があるということは当然物を縫っているので、確実に服があったと考えられています。

国立科学博物館でみるべきポイント3

篠田

 縄文に限らずに人類進化で見るべきというと、国立科学博物館は日本館と地球館の大きく二つのパートに分かれています。地球館では人骨の証拠に基づいて、700万年にわたる人類進化を紹介しています。一方で日本館では、縄文人も含めた日本列島内部での集団形成のシナリオと文化の変遷を紹介しています。国立科学博物館に来て頂ければ、人類進化全体と日本人の起源が骨から理解できる形になっています。
 日本館には、旧石器時代から縄文時代、弥生時代、中世日本、江戸時代と、それぞれの時代の人骨を元にした生体復元像が並んでいます。一目でぱっと見て日本列島ってこんなに人が変わってきたんだ、ということを表している展示なんです。見ていただくと日本人でも江戸時代が一番体格が小さいということもわかると思います。
 「どうやって復元したのか」については、その反対側に骨が置いてあって、この骨格をベースに肉付けがされたということがわかる展示となっています。ただ完成が2007年ですので、残念ながらゲノムの情報が入っていないんです。今度作り変えるとしたら、それを入れた展示ができたらと思っています。

土田

国立科学博物館のみるべきポイントをお教えいただきありがとうございます。私も現代人ということで展示に参加しました。今回初めて伺ったんですが、非常に興味深い展示ばかりですごく楽しかったです。以上です。

日本館2階「歴史を旅する日本人」
日本館2階「歴史を旅する日本人」

本コラムは篠田先生へのインタビューをもとに構成いたしました。該当する研究内容に関しては下記の関連文献をご覧ください。研究内容は全て日本国内の各関連ガイドラインに準拠して行っております。

関連文献
Late Jomon male and female genome sequences from the Funadomari site in Hokkaido, Japan

篠田 謙一, 神澤 秀明, 角田 恒雄, 安達 登. 『韓国加徳島獐遺跡出土人骨の DNA 分析』文物、第9号、167-18月6頁、韓国文物研究院
篠田謙一, 神澤秀明, 角田恒雄, 安達登(2020) 『鳥取県青谷上寺地遺跡出土弥生後期人骨の DNA 分析』、国立歴史民俗博物館研究報告、第 219 集,pp.163-178.

Interviewer

土田 唯

元医療従事者から、医療とITを掛け合わせた仕事に興味を持ち、株式会社Zeneに参画中。
バックオフィスや企画・開発を担当。
特技:はみがき  趣味:英語・国内外旅行